違つて、勝つたことを利巧さうに云ふ。色々批評して、此馬は斯云ふ癖がある。是は斯云ふ所で勝つ、あんな馬でどうして勝てるものか、是は斯して斯うと、それなのに外の馬を買ふ奴は馬鹿だと云ふて豪がつて居りますけどもね。又夫婦連れなどで来て、俺が何番を買へと云ふのに貴様が愚図々々云ふから、それ見ろこんな大きな穴が出来たぢやないかと争つて居るのもあります。
 私は競馬となると気違ひ染みて、それでも商売は一遍も休みませぬけれども、殆ど馬のことばかりを云ふて居るでせう。皆が気違々々と云ふのです、それで皆に、味を知らんでそんなことを云ふけれども、競馬に一度行つて見よ、自分の買つて居る馬が二番目か三番目に附いて、どんどん走つて行つて、愈々決勝百米からじり/\それが向ふへ出て来て、決勝近くになつてそれが端を切り出した時の心持と云ふものは、他で味ふことの出来ぬ愉快がある。だから競馬に行つて居る者は半分気違だよと云つても、根つから皆が其気にならぬのでせう。
 それから落語家として是だけ流行して居る競馬を知らぬのは見理ない。芸術の修養として見に行つて価値があるだらう。何も競馬をやりに行くのでない、自分の稼業の一つと
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