人は自《みず》から従事する所の業務に忠実ならざる可らず。其大小軽重に論なく、苟《いやしく》も責任を怠るものは、独立自尊の人に非ざるなり。
第十七条 人に交《まじわ》るには信を以てす可し。己《おの》れ人を信じて人も亦己れを信ず。人々《にんにん》相信じて始めて自他の独立自尊を実《じつ》にするを得べし。
第十八条 礼儀作法は、敬愛の意を表する人間交際上の要具なれば、苟《かりそ》めにも之を忽《ゆるがせ》にす可らず。只《ただ》その過不及《かふきゅう》なきを要するのみ。
第十九条 己れを愛するの情を拡《おしひろ》めて他人に及ぼし、其疾苦を軽減し其福利を増進するに勉むるは、博愛の行為にして、人間の美徳なり。
第二十条 博愛の情は、同類の人間に対するに止まる可らず。禽獣を虐待し又は無益の殺生《せっしょう》を為《な》すが如き、人の戒む可き所なり。
第二十一条 文芸の嗜《たしなみ》は、人の品性を高くし精神を娯《たのし》ましめ、之を大にすれば、社会の平和を助け人生の幸福を増すものなれば、亦|是《こ》れ人間要務の一なりと知る可し。
第二十二条 国あれば必ず政府あり。政府は政令を行ひ、軍備を設け、一国の男女を保護して、其身体、生命、財産、名誉、自由を侵害せしめざるを任務と為《な》す。是《ここ》を以て国民は軍事に服し国費を負担するの義務あり。
第二十三条 軍事に服し国費を負担すれば、国の立法に参与し国費の用途を監督するは、国民の権利にして又其義務なり。
第二十四条 日本国民は男女を問はず、国の独立自尊を維持するが為めには、生命財産を賭《と》して敵国と戦ふの義務あるを忘る可らず。
第二十五条 国法を遵奉《じゅんぽう》するは国民たるものゝ義務なり。単にこれを遵奉するに止まらず、進んで其執行を幇助《ほうじょ》し、社会の秩序安寧を維持するの義務あるものとす。
第二十六条 地球上立国の数少なからずして、各《おのおの》その宗教、言語、習俗を殊にすと雖も、其国人は等しく是《こ》れ同類の人間なれば、之と交《まじわ》るには苟《いやしく》も軽重厚薄の別ある可らず。独《ひと》り自《みずか》ら尊大にして他国人を蔑視《べっし》するは、独立自尊の旨に反するものなり。
第二十七条 吾々|今代《こんだい》の人民は、先代前人より継承したる社会の文明福利を増進して、之を子孫後世に伝ふるの義務を尽さざる可らず。
第二十八条 人の
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