が遅くなったから人足が毛布を振って頻《しき》りに余を呼んでいる、モウ随分満足することが出来るほど採集したから、それより立ち戻って露営地に着した時は、日も漸く西の波間に没せんとする頃であった、いよいよ仕度を整えて、下山の途に就たのは七時に近い頃であって、余とこの時まで山上に止まっていたのは人足が二人である、少し下ったかと思うと、日は全く暮れてしまって、下るに中々困難で、加藤子爵の一昨夜のこともますます察せられた、殊に人足らは重い荷物を背負っているから大変に後《おく》れるのであるからして、余は提灯を点《つ》けてズンズン先きに進み、ハイマツの焼けて白くなっている所まで行って、人足らの下って来るのを待っておったが、段々夜は更《ふ》けるし、殊《こと》に何だか大きな鳥が時々飛んで来て、何やら気味が悪いような心持もするし、今から考えて見ると、大方北海に名高い鷲であろうかと思うが、その時は何の鳥という考もなく、時々棒を振って打とうとするが、中々それが届くほど低くは飛んで来ないのである。
 人足も来たので、また打連れて下った、終に笹原の中に這入《はい》って幾度かつまずいたり、転んだりして、終に一ツの渓流
前へ 次へ
全24ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 富太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング