たそうであるが、何分にも深夜になって登ることが出来ないので、遂に途中に一泊したとのことであった、加藤子爵も昨夜下山の途に就かれたが、途中ネマガリダケやらミヤコザサやら道に横わっていて、ますます足場が悪くなり、非常に疲労せられたので、鴛泊に帰着されたのは、十二時過る頃であったとのことである、それを考えて見ると、山上に露営した方が、あるいは楽であったかも知れない、十一日の日には木下君は、充分の採集をしたからといって、終に人足と共に下山せられるとの事であるが、余は何分にもまだこの山を捨てて去ることが出来ないので、終に一人踏止まって、なお一夜を明かすことに決心した。
 峰に向って進んで行けば、砂礫の地に達するのであるが、この辺には樹は殆んどないといっても宜しい、もっとも夥《おびただ》しく生えているのが、チシマヒナゲシである、その株のもっとも大なのは直径が五寸ほどもあるかと思う、しかしこの辺には、他の草はあまり多くない方であって、チシマヒナゲシもまたこの土地を除いて外の部分には、殆んど見当らなかったのである、ヤマハナソウ、シコタンソウ、シコタンハコベ、エゾコザクラ、リシリリンドウ、チシマリンドウ
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