なども、この辺から絶頂に達する間に自生していた。
 絶頂に達すると、木造の小さな祠《ほこら》があるが、確か不動尊を祀《まつ》ってあるという話しであった、絶頂は別段平地がある訳でもなく、またこの辺には樹は生えていなくて皆草ばかりである、草は少ない方ではないといって宜しかろう、この辺に、タカネオウギの自生しているのを見た、絶頂から少し向うへ下る所まで、木下君と同行したが、此所《ここ》でとうとう同君と分れて、自分は一人となった、その辺にリシリオウギ、ヒメハナワラビ、ミヤマハナワラビなどが生えている。
 この絶頂に立って眺むるというと、東北の方に当っては、宗谷湾が明かに見ることが出来て、白雲がその辺から南の方に棚引いて、広き線を引いておって、幽かに天塩《テシオ》の国の山々を見ることが出来た、西の方は礼文島《レブンとう》を鮮《あざや》かに見ることが出来て、その外にはいわゆる日本海で何にも眼に遮《さえ》ぎるものはなく、ただ時々雲の動くのを見るばかりである、それから今は日本の領地となったのであるが、樺太の方は、この時|朦朧《もうろう》として、何れが山であるか雲であるかを見分ることも出来ない有様であった、最も愉快であったのは、夕陽が西に廻るに従って、利尻山の影が東の海上にありありと映って、富士山でよく人の見るという、影富士と同様のものを、この北海の波上に見ることが出来たのである、なおそれよりも愉快であったのは、午後四時頃であったと思う、この利尻山の絶頂に於て、いわゆる御来光《ごらいごう》を見ることが出来た、即ち自分の姿が判然と自分の前を顕われるのを見ることが出来たのである。
 絶頂よりなお前面を見れば第二の峰が聳《そび》えているのであるが、時間がなくなったのでこの日は第二の峰に行かずして、前夜の露営地まで戻ることになった、今日は随分採集をしたのであるからして、その始末をするに、多くの時間を費して、終に徹夜をするような有様になった、しかしながら、前夜に比すれば、防寒具なども人足らが携え来ったのであるから、大いに寒気を凌《しの》ぐことが出来た。
 十二日の日も幸いにして晴天であった、午前三時頃露営の小屋を出でて仰ぎ見れば孤月高く天半に懸って、利尻山の絶頂は突兀《とっこつ》として月下に聳えている、この間の風物は何んとも言いようのない有様である、三時頃からして東の方が漸く明るくなって、四時半には太陽が地平線上に出た、この時西北の方を仰ぎ見ると、昨日は多少雲もあったが、今日は更に一点の浮雲もないので、礼文の方はますます鮮かに見ることが出来た上に、宗谷の方も東に無論見ゆるし、東北の方に一ツの小さな島を見ることが出来た、この島は無論樺太に属するものである、朝の食事を終ってから再び絶頂に進んで、それからなお第二の峰に向って足を進めたが、その間は僅に三、四町に過ぎないといっても宜しいであろう、勿論足場はよくないけれども、無論第一の峰ほどの困難はないのである、第二の峰にはあまり石などはないのであるが、自生している草は、チシマラッキョウ、エゾヨツバシオガマ、ホソバオンタデ、リシリソウなどで、殊にキバナノシャクナゲが甚だ夥《おびただ》しく自生していた、第二峰の先きに第三の峰があるが、この峰に行くのは甚だ困難で、中間に絶壁の殆んど足場の得難いものがあるので、残念ながら全く断念することの止を得ないのを認めた、第二峰から西の斜面に降ったところに、蝋燭《ろうそく》岩という大きな岩がある、岩の上にはタカネツメクサやらコイワレンゲなどが生じていて、またその岩の下には、チシマイワブキやら、エゾコザクラの花のあるのなどが生じておった、この辺は雪が消えて間もないような模様であったが、しかし残雪は認めなかった。
 既に第三峰に行くのを断念したから、この峰から後戻りをして、第一峰に帰り、それから少し下って右の斜面に這入《はいっ》て見たら、この辺は一面に草があって、その中にはアラシグサが沢山生えておった、なおそれから少し下ると雪が沢山に残っている、その大サは幅が十間ばかりもあったであろうか、長く下の方まで連っているのでその長サがどの位あるか殆んど窮めが附かない、この雪の両側にはキンバイソウが黄金色の花を開いて夥しく生じておった、その萼弁《がくべん》が十枚以上あって、あるいは一の新種ではなかろうかと思われるほどである、リシリキンバイソウもこの辺に生じていたし、エゾコザクラも丁度花盛りであった、無論この残雪のあるあたりは、幾分谷のような形をなしていて、その谷の両側は殆んど一面にハイマツが土を掩《おお》うている、そのハイマツを越えて、雪の左の方に向って進んで行けば、露営地の下の谷のところへ出られるのである、漸くこの辺に達した時分に天気が変って来て、終に雨が降り出した。
 あまり所々を採集して時間
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