、これをヨシノユリか、あるいはリョウリユリと呼んだならきわめてよいと思われる。ヤマユリの名は、なんとなく土臭《つちくさ》い感じがして、いっこうに上品に聞こえない。
 このヤマユリは日本の特産で、中国にはないから、したがって中国名はない。日本の学者は『汝南圃史《じょなんほし》』という中国の書物にある天香百合をヤマユリだとしていれど、それはむろん誤りである。
 ヤマユリは、輸出向きには一等重要なユリである。従来非常にたくさんなこのユリ根が外国に輸出せられたが、これからも漸次《ざんじ》にその盛況《せいきょう》を見るに至るであろう。
 ササユリは、関西諸州の山地には多く野生《やせい》しているが、関東地方には絶《た》えてない。しかし関西の地でも、あまり人家には作っていない。茎《くき》は九〇〜一二〇センチメートルに成長して立ち、なんとなく上品な色を呈《てい》し、花も淡紅色《たんこうしょく》で、すこぶる優雅《ゆうが》である。前記のとおり、このユリにもヤマユリの名があり、またサユリという名もある。サユリはサツキユリの略されたもので、それは早月《さつき》(旧暦の五月、今日《こんにち》では六月に当たる)の
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