油然《ゆうぜん》と湧《わ》き出るのを禁じ得ない。されども、人々が野や山より移して庭に栽植《さいしょく》しないのはどうしたものか、やはり、野に置けれんげそうの類かとも思えども、しかしそう野でこれを楽しむ人もないようだ。
 リンドウはリンドウ科に属し、わが邦《くに》では本科中の代表者といってよい。そしてその学名は Gentiana scabra Bunge[#「Bunge」は斜体] var. Buergeri Maxim[#「Maxim」は斜体]. である。この学名中にある var. はラテン語 varietas(英語の variety)の略字で、変種ということである。
 このリンドウ属(Gentiana)には、わが邦《くに》に三十種以上の種類があるが、その中でアサマリンドウ、トウヤクリンドウ、オヤマリンドウ、ハルリンドウ、フデリンドウ、コケリンドウなどは著名な種類である。右のアサマリンドウは、伊勢《いせ》〔三重県〕の朝熊山《あさまやま》にあるから名づけたものだが、また土佐《とさ》〔高知県〕の横倉山《よこぐらやま》にも産する。
 根の味が最も苦《にが》く、能《よ》く振《ふ》り出して健胃《け
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