ユリは、伊豆七島《いずしちとう》における八丈島《はちじょうじま》の南にある小島青ヶ島の原産で、日本のユリ中、最も巨大なものである。花は純白で香気《こうき》強く、実にみごとなユリで、この属中の王様である。球根もきわめて大きく、鱗片《りんぺん》も大形で肉厚く黄色を呈《てい》し、食用ユリとしても上位を占《し》むるものといってよろしい。
 スカシユリは、ふつうに栽培《さいばい》して花を咲かせていて、その花色には赤、黄、樺《かば》〔赤みを帯《お》びた黄色〕などがある。花は上向きに咲き、花蓋片《かがいへん》のもとの方がたがいに透《す》いているので、スカシユリの名がある。諸国の海岸に野生《やせい》しているユリに、ソトガハマユリとも、テンモクユリとも、ハマユリとも、またイワトユリともいう樺色花《かばいろか》のユリがあるが、これは右スカシユリの原種である。東京付近では房州《ぼうしゅう》〔千葉県の南部〕、相州《そうしゅう》〔神奈川県〕、豆州《ずしゅう》〔伊豆半島と伊豆七島〕へ行けば得られる。
 コオニユリは、オニユリに似て小さいというのでこの名があるが、一にスゲユリともいわれる。それは葉が狭長《きょうちょう》だからである。山地|向陽《こうよう》の草中に野生し、オニユリのごとき丹赤色《たんせきしょく》の花が咲き、暗褐色《あんかっしょく》の斑点《はんてん》がある。球根は食用によろしい。
 ヒメユリはその名の示すごとく可憐《かれん》なユリである。関西地方から九州にかけて山野に野生があるが、そう多くはない。茎《くき》は六〇〜九〇センチメートルに立ち、狭葉《きょうよう》を互生《ごせい》し、梢《こずえ》に少数の枝を分かちて、きわめて美麗《びれい》な真赤色の花が上向きに咲く。この一変種に、コヒメユリというのがある。茎《くき》は細長く花は茎末《けいまつ》に一、二|輪《りん》咲く。この品は野生はなく、まったく園芸品である。
 クルマユリは、その葉が車輪状《しゃりんじょう》をなしているので、この名がある。花は茎梢《けいしょう》に一花ないし数花|点頭《てんとう》して咲き、反巻《はんかん》せる花蓋面《かがいめん》に暗点がある。高山《こうざん》植物の一つであるが、羽前《うぜん》〔山形県〕の飛島《とびしま》に生《は》えているのは珍しいことである。
 右のほかヒメサユリ、タケシマユリ、タツタユリ、ハカタユリ、カサユリなどの種類がある。ウバユリというのは異彩《いさい》を放ったユリで、もとはユリ属(Lilium)に入れてあったが、私はこれをユリ属から独立させて、Cardiocrinum なる別属のものとしている。その葉はユリの諸種とは違い、広闊《こうかつ》なる心臓形で網状脈《もうじょうみゃく》を有し、花は一茎に数花横向きに開き、緑白色《りょくはくしょく》で左右相称状になっている。鱗茎《りんけい》の鱗片《りんぺん》もきわめて少なく、花が咲くとその鱗茎《りんけい》は腐死《ふし》し、その側に一、二の仔苗《しびょう》を残すにすぎない特状がある。この属のもの日本に二種、一はウバユリ、二はオオウバユリである。インド・ヒマラヤ山地方に産する偉大なウバユリ、すなわちヒマラヤウバユリもこの属に属する。
 輸出ユリとしては日本が第一で、年々たくさんな球根が海外へ出ていたが、戦争で頓挫《とんざ》していたけれども、これからふたたび、前日のような盛況《せいきょう》を見るであろうことは請《う》け合いで、わが邦《くに》園芸界のために、大いに祝《しゅく》してよろしい。その輸出ユリの第一はヤマユリ、次がテッポウユリ、次がカノコユリという順序だろう。これらのユリは、日本でなるべくその球根を大きくなるように培養《ばいよう》して、その球根を輸出する。先方ではそれを一年作って、さらにその大きさを増さしめ、そして次年《じねん》に勢《いきお》いよく花を咲かせてその花を賞翫《しょうがん》する。花が咲いた後、弱った球根は捨てて顧《かえり》みない。
 ゆえに年々歳々《ねんねんさいさい》日本から断《た》えず輸入する必要があるので、この貿易は向こうの人の花の嗜好《しこう》が変わらぬ以上いつまでも続くわけで、日本はまことにまたと得がたい良い得意先を持ったものだ。また、良いユリをも持ったものだ。万歳万歳《ばんざいばんざい》。

[#「ユリの図」のキャプション付きの図(fig46821_12.png)入る]

     ハナショウブ

 ハナショウブは世界の Iris 属中の王様で、これがわが邦《くに》の特産植物ときているから、大いに鼻を高くしてよい。アメリカでは、花ショウブ会ができているほどなのであるが、その本国のわが邦《くに》では、たいした会もないのはまことに恥《は》ずかしい次第《しだい》であるから、大いに奮起《ふんき》して、世界に負け
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