》を小皿に見立てたものである。そして属名の Narcissus は麻痺《まひ》の意で、それはその草に含まれているナルキッシネという毒成分に基《もと》づいたものであろう。
 水仙《すいせん》の花は早春に咲く。すなわち地中の球根《きゅうこん》(球根は俗言《ぞくげん》で正しくいえば襲重鱗茎《しゅうちょうりんけい》)から、葉と共《とも》に花茎《かけい》(植物学上の語でいえば※[#「くさかんむり/亭」、第4水準2−86−48]《てい》)を抽《ひ》いて直立し、茎頂《けいちょう》に数花を着《つ》けて横に向かっている。花には小梗《しょうこう》があり、もとの方にはこれを擁《よう》して膜質《まくしつ》の苞《ほう》がある。そして小梗《しょうこう》の頂《いただき》に、緑色の子房《しぼう》(植物学では下位子房《かいしぼう》といわれる。下位子房《かいしぼう》のある花はすこぶる多く、キュウリ、カボチャなどの瓜《うり》類、キキョウの花、ナシの花、ラン類の花、アヤメ、カキツバタなどの花の子房はみな下位でいずれも花の下、すなわち花の外に位《くらい》している)があり、子房の上は花筒《かとう》となり、この花筒の末端《まったん》に白色の六|花蓋片《かがいへん》が平開《へいかい》し、花としての姿を見せよい香《か》を放っている。そしてこの六花蓋の外列《がいれつ》三片が萼《がく》に当たり、内列《ないれつ》三片が花弁《かべん》である。
 このように、花弁と萼《がく》との外観が見分《みわ》け難《がた》いものを、植物学では便利のため花蓋《かがい》と呼んでいる。この開展《かいてん》せる瑩白色花蓋《えいはくしょくかがい》六|片《へん》の中央に、鮮黄色《せんおうしょく》を呈せる皿状花冕《さらじょうかべん》を据《す》え、花より放つ佳香《かこう》と相《あい》まって、その花の品位《ひんい》きわめて高尚《こうしょう》であることに、われらは讃辞《さんじ》を吝《お》しまない。そしてこの水仙《すいせん》の花を、中国人は金盞銀台《きんさんぎんだい》と呼んでいる。すなわち銀白色の花の中に、黄金《おうごん》の盞《さかずき》が載《の》っているとの形容である。
 水仙花《すいせんか》の花筒《かとう》の内部には、黄色の六|雄蕊《ゆうずい》があり、花筒の底からは一本の花柱《かちゅう》が立って、その柱頭《ちゅうとう》は三|岐《き》しており、したがって子房
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