ら、それを漫然と黒味がかった色と書いたのだと言えば通らんこともなかろうし、また苦甘はそれを噛んでの腥さい味を不手際に形容して書いたのだと評せば許しておけないこともあるまい。こんなわけで、馬鈴薯は九子羊および土※[#「囗<欒」、8−8]児すなわちホドイモであるようだとして、疑を存しておくよりほか今別に致し方もあるまい。つまり福建省の松溪県からその土地でいう馬鈴薯の実物が出て来てくれさえすれば、この問題はたちまち解決せられるのであるが、それは中国の学者の研究に期待したい。
 ジャガタライモは、今世間一般の人が呼んでいるようにジャガイモと仮名で書けばよろしい。もしこれを漢字で書きたければそれを爪哇芋か爪哇薯かにすればよい。なにも大間違いの馬鈴薯の字をわざわざ面倒くさく書く必要は全くない。いったい植物の日本名すなわち和名はいっさい仮名で書くのが便利かつ合理的である。漢名を用いそれに仮名を振って書くのは手数が掛り、全くいらん仕業だ。例えばソラマメはソラマメでよろしく、なにも煩わしく蚕豆と併記する必要はない。キュウリはキュウリ、ナスはナス、トウモロコシはトウモロコシ等々で結構だ。胡瓜、茄、玉蜀黍等
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