かと推測せられた記事が新聞にでていたのを見て、同博士もやはり同じ感じだなと思った。しかるにある菌学者が言うのには、それは多分その小麦粉が湿気を帯びて何か黴が来、それから分泌した毒のためではなかろうかとのことであった。
ずっと以前、もう三十年[#「三十年」に「ママ」の注記]あまりにもなったろうが、我国の麦畑に諸所で毒麦の繁殖したことがあった。その後もどこかでボツボツは生じているのではなかろうかと思うこともあったが、少しばかり生えていたとて別に人の注意も惹かないので、その後私は全く毒麦のことは忘れていた。しかるに近年それが東京付近の地で少々生えていたことを知った。
いったいこの毒麦とはどんなものか。先ずこの禾本の学名をたずねると、それは Lolium temulentum L[#「L」は斜体]. であって、その種名の temulentum とはぐでんぐでんに酒に酔うたことである。そして本品は欧州、北アフリカ、西シベリアならびにインドの原産である。一年生の草で独生あるいは叢生の稈《かん》は直立し、単一で分枝せず高さが三、四尺にも達する。線形の緑葉を互生し、葉片下に稈を取り巻く長い葉鞘があ
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