に見参し、形円くあるいは多少平円でその大きなものは宛として人の頭ほどになる。初めは小さいが次第に膨らんできて意外に大きくなる。最初は色が白く肉質で中が実しており、脆くて豆腐を切るようだが、後ちには漸次に色が変わり遂に褐色に移り行って軽虚となり、中から煙が吹き出て気中に散漫するようになるが、この煙はすなわちその胞子であるから、今これを胞子煙と名づけてもまんざらではあるまい。今から一〇九〇年も前に出来た深江輔仁《ふかえのすけひと》の『本草和名《ほんぞうわみょう》』に「和名、於爾布須倍」すなわちオニフスベと出ているが、しかもその書にはなにもその意味は書いてない。しかしこれは誰にでも鬼を燻べる意味だと取れるであろうことは、もっとものように感ぜられるが、ただし私の考えではこのフスベは贅すなわち瘤のことであろうと思う。源順《みなもとのしたごう》の『倭名類聚鈔《わみょうるいじゅしょう》』瘡類中の贅を布須倍(フスベ)としてある。そこでオニフスベは鬼の瘤の意であると推考せられ得る。瘤々しくずっしりと太った体の鬼のことだから、すばらしく大きな瘤が膨れ出てもよいのだ。そして鬼を燻べるということだと解する人が
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