て各※[#「くさかんむり/亭」、第4水準2−86−48]端にタンポポ様の黄花が日を受けて咲くので、私はこの和名をフキタンポポとしてみた。
 この※[#「肄のへん+欠」、第3水準1−86−31]冬は宿根生で、早くその株から出た花がおわると次いで葉が出る。葉は葉柄を具《そな》え角ばった歯縁ある円い形を呈し、葉裏には白毛を布いている。本品はかつて薬用植物の一つに算えられ、欧州には普通に産する。そして西洋では多くの俗名を有すること次の如くである。すなわち Colts−foot(仔馬ノ足)Cough wort(咳止メ草)Horse−foot(馬ノ足)Horse hoof(馬ノ蹄)Dove−dock(鳩ノぎしぎし)Sow−foot(牝豚ノ足)Colt−herb(仔馬草)Hoof Cleats(蹄ノ楔)Ass's foot(驢馬ノ足)Bull's foot(牡牛ノ足)Foal−foot(仔馬ノ足)Ginger(生姜グサ)Clay−weed(埴草《ハニクサ》)Butter bur(バタ牛蒡)Dummy−weed(贋物草)である。
 ※[#「肄のへん+欠」、第3水準1−86−31]冬は早春に雪がまだ残っているうちに早くもその氷雪を凌いで花が出る。「※[#「肄のへん+欠」、第3水準1−86−31]ハ至ルナリ、冬ニ至テ花サクユエ※[#「肄のへん+欠」、第3水準1−86−31]冬ト云ウ」と中国の学者はいっている。※[#「肄のへん+欠」、第3水準1−86−31]冬にはなお※[#「肄のへん+欠」、第3水準1−86−31]凍、顆冬、鑚冬などの別名がある。
 日本のフキを蕗と書くのもまた間違っている。フキには漢名はないから仮名でフキと書くよりほか途はない。フキでよろしい。これがすなわち日本の名なのである。

  薯蕷とヤマノイモ

 昔から薯蕷《ショヨ》をヤマノイモ(Dioscorea japonica Thunb[#「Thunb」は斜体].)にあてて用いているのは大変な間違いであるにもかかわらず、世人はこれを悟らずに今日でもヤマノイモに薯蕷の字を使っているのはもってのほかの曲事《くせごと》である。また山薬をヤマノイモとしているのも同様全くの間違いである。元来山薬とは薯蕷の一名であるから薯蕷がヤマノイモでない限り、山薬もまたヤマノイモたり得ない理屈だ。そしてこの山薬が薯蕷の代名となったのには一つのイキサツがあるのだが、その訳は別項「ナガイモとヤマノイモ」の条下に記してある。
 我邦従来の習慣を破って薯蕷がヤマノイモではないことを絶叫したのは私であって、以前その委曲を発表したのは昭和二年で、その年の十二月に発行せられた『植物研究雑誌』第四巻第六号の誌上においてであった。題は「やまのいもハ薯蕷デモ山薬デモナイ」であって詳しく、その事由《じゆう》を図入りで説明しておいた(『牧野植物学全集』第六巻に転載)。ではその薯蕷とはなにものか、それはナガイモ(Dioscorea Batatas Decne[#「Decne」は斜体].)だ。
 このナガイモにはその根に種々な変わり品があって圃につくられている。ヤマトイモ、キネイモ、イチョウイモ、テコイモ、ツクネイモ、トロイモなどがそれである。そしてこのナガイモは中国の産ではあるが、また、我国の産でもあって、我国での野生品は往々河畔の地などにこれが見られる。面白いことは、圃につくられているものはみな雌本で雄本は絶えてないことである。これから推してみると、この作物になっているナガイモはもとあるいは中国からその雌本が移入せられたのかも知れない。しかしこの種の本邦野生のものには雌本もあれば雄本もある。
 トロロにするにはヤマノイモ(一名ジネンジョウ)の方がまさっている。ナガイモの方には粘力が比較的少なくて劣っている。そしてこのように生のまま食う根は他にはない。クログワイ、オオクログワイは生でも食えるけれど、これはじつは塊茎で真の根ではない。サツマイモは真の根だけれど、それは子供等がいたずらにかじっているくらいで、一般には誰も生ま薯を賞味することはない。
 ヤマノイモが鰻になるとはもちろんじつはウソの皮だが、鰻もヤマノイモも共に精力を増す滋養満点の物だから、その両方の一致した滋養能力から考えて、このように名言を作っていったのではなかろうか。書物によると、ヤマノイモの根が山岸のところで露われ出て、水の流れへ浸り込むと、それがたちまち化して鰻になるとまことしやかに書かれている。
 ヤマノイモもナガイモも共に蔓上葉腋にいわゆるムカゴ一名ヌカゴすなわち零余子ができる。今これを採り集めて植えると幾らでも新仔苗がはえて繁殖する。またムカゴは無論食用にもなる。
 前記のようにナガイモには薯蕷の漢名があるが、ヤマノイモにはそれがない。
 Yam という字が
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