痩せ長くて容易に縦に裂ける。蓋《かさ》は浅い鐘形で径五分ないし一寸ばかり、灰白色で裏面の褶襞《ひだ》は灰褐色である。全体質が脆く、一日で生気を失いなえて倒れる短命な地菌である。
 昭和二十一年九月十一日に来訪した小石川植物園の松崎直枝君から、このマグソダケが食用になり、それがまたすこぶるうまいということをきいて私は大いに興味を感じた。
 この菌がかく美味である以上は、大いにこれを馬糞、腐った藁に生やして食えばよろしい。春から秋まで絶えず発生するというから、随分と長い間賞味することが出来る訳だ。
 これが馬糞へ生えるのはちょうど彼のいわゆるシャンピニオンのハラタケ(田中延次郎命名)一名野原ダケ(拙者命名)すなわち Psalliota campestris Fries[#「Fries」は斜体](=Agaricus campestris[#「Agaricus campestris」は斜体] L.)が連想せられる。このシャンピニオンが培養せられるときには馬糞が使用せられる。それはその生える床に熱を起こさせんがためである。
 一茶の句に「余所|並《なみ》に面並べけり馬糞茸」というのがある。
 今次ぎに私のまずい拙吟を列べてみる。

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食う時に名をば忘れよマグソダケ
その名をば忘れて食へよマグソダケ
見てみれば毒ありそうなマグソダケ
恐《こ》は/″\と食べて見る皿のマグソダケ
食てみれば成るほどうまいマグソダケ
マグソダケ食って皆んなに冷かされ
家内中誰も嫌だとマグソダケ
嫌なればおれ一人食うマグソダケ
勇敢に食っては見たがマグソダケ
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 馬勃(オニフスベ)にもウマノクソタケの名があるが、上のマグソダケとは無論別である。
 大正十四年八月に、飛騨の高山の町で同町の二木長右衛門氏に聞いた話では、「馬糞ナドニ生エル馬糞菌ヲ喜ンデ食フコトガアル」とのことであった。また「何レノ菌デモ一度煮出シ置キ其後ニ調食セバ無毒トナリ食フ事ガ出来ル」とのことも聞いた。この高山町では漬物の季節に当たって、近在から町へ売りに来る種々な菌を漬物と一緒にそれへ漬け込むのである。同町では定まった漬物日があって年中行事の一つとなっており、その日に各家で漬物をする。その漬物桶が家によってはとても結構なのが用意せられているとのことである。これは他国では見られぬ珍らしい
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