若き日の思い出
牧野富太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)土予《とよ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)山奥|椿山《つばやま》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)蹉※[#「足へん+它」、第3水準1−92−33]《さだ》の岬
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    一、雨の深山で採集

 私は自分の学問に対してあまり苦労したことはなかった。今日まで何十年にわたる長い年月の間実に愉快に学問を続けてきて、ついに今日に及んだのであるが、平素その学問を特に勉強したようにも感じていないのは不思議である。
 これは結局生まれつき植物が好きであったため、その学問があえて私に苦痛を与えなかったのであろう。
 私は少年時代からたえず山野に出て植物を採集した。それが今日もなおやはり続いてその採集がとてもたのしい。
 今から七十余年前、明治十三年の夏、私が十九歳の時、友人と二人で土予《とよ》の国境近くにそびえる四国第一の高山、石槌山《いしづちやま》に採集に出かけた。まだその時
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