分は洋服などなく日本着物であった。まず郷里佐川町の宅を出て数里先の黒森を越え、池川村で国境近くの山奥|椿山《つばやま》の農家でとまった。それから国境の深山《みやま》を通じる山道にさしかかるのだが、あいにく雨天であったため傘なしのずぶぬれで、遂に雨の石槌山にたどりつき、その絶頂に登った。さてそれからその山腹下の山村、黒川村でとまり、はじめてジャガイモを味わった。これは古くから同地でつくられてあったものでカウバウイモといっており形の小さい薯《いも》であった。翌日また雨をついて帰途についたが、山中で日が暮れ、人里遠き深林の中で野宿をしたが、夜半に雷が鳴ったり、雷光が光ったりとてもすごかった。夜明けにやっと前の椿山に帰りつき、遂に郷里に帰ってきたが、行きから帰りまで雨天で着物はぬれ大いに困った。それでもそのおかげでいろいろの植物を見たが、上の黒森では初めてオホナンバンギセルを採って、これを写生してきた。何といっても案内人もつれず、二人ではじめて国境の深山へ分け入ったが、よく道に迷わずにすんだ。
二、各地での採集
あくる年の明治十四年、私の二十歳の時、人足を一人つれて土佐幡多郡を広
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