るので女中はむなしく帰ったことがあった。
今からだいぶ前のことであるが肥前の五島列島中の最西端にある福江島《ふくえじま》へ単身で行ったことがある。それはその島の西端荒川村の玉ノ浦にヘゴがあるというのでそれを見、そして採集するために行って十分に検分し、採集してきた。その時の石のヘゴの幹が今私の宅にある。そこに日本の一番西端に位置する巨大な灯台がある。これがバルチック艦隊をまっ先に見つけたので記念となっている。この灯台に対して大きな岩が海中にある。私はその一端に腰掛け、足をブランブランさせていたが、もう灯台を見あきたので、そこを去りヒョイとその一方から今腰かけたところを望んだら私の腰かけた所が薄い岩のふちだったのでゾッとした。よく体の重みでその岩が割れて下に落ちなかったものだと。もし岩がかけたら私は数丈下の海中へおちるのであった。まず仕合せであった。――帰途にイツク山という在所を通ったところ、そこの宮林の巨大なタズノキを木こりが切り倒していた。見上げると、その高い枝の股に巨大なオホタニワタイが数株あった。さあそれが採りたくてたまらず、ソマに頼んでその中の最も巨大な一株を地に落してもらった
前へ
次へ
全6ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧野 富太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング