ツバタを蠡実、一名劇草、一名馬藺子等と書き、次いで千年余りも前にできた源順の『倭名類聚鈔』にもまた、加木豆波太、すなわちカキツバタを劇草、一名馬藺と記し、次いでまた九百余年前に撰ばれた『本草類編』にも、加岐都波奈を蠡実と書いてあるのはいずれもみなその漢名の適用を誤っていて、これらはことごとく同属ネジアヤメの名である。
カキツバタを加木豆波太、加岐都波太、加吉都幡多、華己紫抜他、もしくは加岐都波奈と書くのは単にその和名を漢字で書いたもので、すなわちいわゆる万葉仮名である。またさらに同じく漢字をもって書いたものに、垣津幡、垣津旗、垣幡がある。またカキツバタの別名としてカイツバタ、貌吉草《カオヨグサ》、カオヨバナ、カオ花、貌花《カオバナ》、容花《カオバナ》、可保婆奈《カオバナ》、可保我波奈《カオガハナ》があるが、これらは主として古歌に用いられたもので、今日ではただカキツバタの一通名で一般にとおっていてあえて他の名では呼ばなく、ただときとすると略して、カキツと呼んでいることがあるにすぎない。
支那の植物に杜若《トジャク》という草があって、わが邦の学者は早くもこれをカキツバタであると信じた。
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