この用水池の周囲にヤナギの木が繁つていて、その小池を掩うていた。私はそこのヤナギの木に倚りかかつて、その枝を折りつつ、ふと下の水面に眼を投げた刹那、異形な物が水中に浮遊しているではないか。
「はて、何であろうか」と、早速これを掬い採つて見たら、一向に見慣れぬ一つの水草であつたので、匆々東京に戻つて、すぐ様、大学の植物学教室(当時のいわゆる青長屋)に持ち行き、同室の人々にこの珍物を見せたところ、みな「これは?」と驚いてしまつた。
 時の教授矢田部良吉博士が、この植物につき、書物(多分ダーウィンの「インセクチヴホラス・プランツ」であつたろう)の中で、何か思いあたることがあるとて、その書物でその学名を捜してくれたので、そこでそれが世界で有名なアルドロヴァンダ・ベンクローサであることが分つた。
 この植物は、植物学上イシモチソウ科に属する著名な食虫植物で、カスパリーやダーウィンなどによつて、詳かに研究されたものであつた。
 しかし、この植物は、世界にそう沢山はなく、ただ僅かに欧洲の一部、インドの一部、濠洲の一部にのみ知られていたが、今回意外にもかくわが日本で発見せられたので、ここに新しく一つの
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