キ以下を、船長六十フィートごとに完全に遮断する横隔壁を設け、船首と船尾にはもうひとつ特別な隔壁を作った。
 鉄の船は沈む――という臆断は、これで完全に否定されたわけだ。いな、およそ沈まぬ船というものが、木でなく鉄によって、はじめて実現されたのである。
 一八五八年一月三十一日。このあらゆる意味で画期的な海の巨人が、近代資本主義の祝福を一身に集めて、進水式を挙げる日である。「グレート・イースタアン」は六八〇フィートの長大な船体をテームズ河に併行させていた。進水は横|辷《すべ》りに行われる。ボイラーも何もはいっていない正味一万二千トンの重さを、約八〇平方フィートの二台の承船架《クレードル》が、がっちりとのっけて、さらにその承船架を支えて河中まで、たっぷり油を引いた幅八十フィート長さ二百フィートの滑走路が、十四フィートに一フィートの傾斜でのびていた。
 ところが、いよいよ羅針盤《コンパス》の四隅は銀盃の酒で清められ、支柱がとり外され、巨体が一間ばかりそろそろと辷った、と思うと、どうしたわけか、そこへ釘づけになって、梃《てこ》でも動かない。
 水圧機を使ったり、散々手間と金を費したあげく、よう
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