することができる。
だが、しょせんそれは不可能であった。天候一変の節、存分役に立つだけ強力なエンジンを装備すれば、エンジンやボイラーの容積は大きく要る。機関部員も一人二人では済まなくなる。結局エンジンが遊んでいる日も得にはならない。さりとて、得になる程度の小規模な馬力では、いざ荒天となって、何の役にもたたぬ。
この矛盾を解決してくれるものはないか? 詩にみちた、かぐわしい、帆船時代をとり戻すために? そして貧血した帆船業者を、昔の利潤にありつかせるために?
たまたま二十世紀の前夜にあたって、ディーゼル博士が内燃機関を発明した。エンジンも、燃料も、きわめてわずかな容積で済み、熟練した技師が一人か二人あれば沢山、さあ問題は解決した、というので、一九一〇年頃から、ディーゼル・エンジンを補助機関に備えつけた日和見帆船がワンサとできた。
だが、ディーゼルもまた従来発明されたすべての推進機関と同様に、結局は汽船をより「経済的」に武装した。二万トン以上のモーター・ライナーは今日ではけっして珍しくない。ディーゼルはあまりに経済的であった。――で、かりに一万トンの帆船がこの機関を有効な補助推進機
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