業者の利益のためでなく、これを敵とする帆船業者の武器として発明されたという点を、銘記しておくことが必要だ。
 もっとも、生れたての汽船も、補助汽走船みたいなものだった。だが、その場合あくまで帆の方が補助機関であって、汽船が完成されるにつれて帆も帆柱もなくなってゆき、今日では、尾底骨《びていこつ》的存在にまで退化してしまった。
 いわゆる補助汽走船は、本来帆船であり、あくまで汽船に対抗するための、帆船の変形物にすぎない。だから汽船が発達して、補助の帆柱を単なる旗竿に使うようになっても、いわゆる補助汽船はけっして跡を断たなかった。失敗しても失敗してもあとからあとからできていった。没落する帆船業者の悲鳴的利害をその基礎にもっていたからであった。
 一見補助汽走船はうまくいくように思える。風のあるかぎり帆を掲げて、一文も使わず時にいいかげんな汽船以上の速力もでる。天候一変すればエンジンをかけて稼ぐから、……だから折衷主義を「日和見《ひよりみ》主義」というのである……ほぼ間違いなく予定日数を約束することもできて、汽船より安い賃銀で、汽船のもつ最大の利益――パンクチュアリティ――を大方の顧客に提供
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