三百六十一トンの「カイゼル・ウィルヘルム二世」がそれである。
「グレート・イースタアン」から「カイゼル・ウィルヘルム二世」にいたる半世紀の間、技術上の進歩はどの方面で行われていたか? 船体の構造についていえば、トン数の割合にいやに細長くなったことである。そのため速力が増し、同時に中央部船室の数が殖えるという一石二鳥の徳がある。むろんライナーの話で貨物船はべつだ。何よりの発達はいうまでもなくエンジンで、複式エンジンのことは前に書いたが(それとともに外輪《パドル》は永遠に博物館物になった)、一八八一年には三段膨脹機関《トリプル・エキスパンション・エンジン》、一八九四年には四段膨脹機関《カドラプル・エキスパンション》が発明されて、そのたびに汽船はいよいよ「経済的に」なっていった。「グレート・イースタアン」がべらぼうな図体に設計されたのは単式機関の欠陥を補うための手段だった。これに反して「カイゼル・ウィルヘルム二世」は時速二三ノット半を平気で出しうる双スクリュー四段膨脹エンジンの性能を百パーセント発揮するために、半世紀の間忘れられた怪物的巨体を恢復《かいふく》したのである。
 汽船の凱歌《がい
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