ろもの》をひっぱってゆくという前代未聞の仕事には、まことにうってつけの彼女であった。彼女を除いたら、どんな大きな船といってもやっと三千トン級で、とうていこの仕事には耐えられなかった。だがこの独占的仕事も、一八六三年から一八七四年まで前後十一年間続いておしまいになった。その頃はもう、優美な複式機関スクリュー船が商船界に君臨して、無格好な外輪をくっつけている図体ばかりでかい彼女をあざわらっていた。用のない彼女は自殺するほかはない。一八九〇年、一世を震撼させた「グレート・イースタアン」は、リヴァープール湾に注ぐマアセイ河のとある場所で解剖されて鉄片となった。

[#7字下げ]四[#「四」は中見出し]

「グレート・イースタアン」はいいみせしめとなった。彼女が進水してから三十年間というものは、その大きさの半分に達する船さえついに一|艘《そう》も造られていない。そして、彼女を凌駕すること四百四十七トンという大船が生れたのは、やっと一九〇一年――彼女の誕生日から数えて実に半世紀の後であった。しかし英国旗をひるがえすはずもない。英帝国主義の一大敵国にまで発展した新興ドイツをシンボライズする、一万九千
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