ランである。
[#7字下げ]三[#「三」は中見出し]
従来の汽船の少くとも五、六倍の大きさ――約二万トンの巨船を造って、相当馬力の――もちろん単式低圧――機関を装備すると、二、三千トン級の船に比して沢山の有利な条件がえられる。こんな巨大船はいったん動き出したらあとは楽に推進できる。したがって同一式の機関でも小汽船に比して速力にたいする石炭消費率は減少する。つぎに濠洲までの所要石炭をたっぷり積込むことができ、速力は約十五ノット出せる予定だが(この時までの汽船の最大速力は大西洋ライン「エシア」木造二千三百トンの十二ノット半)、何よりの強味は船体が巨きいため所要炭庫(および機関部)容積が比較的に最小で済むこと、したがって貨物および船客の収容力が比例的に激増することである。これらの点からして国庫補助金によらざる経営が充分可能になるばかりでなく、厳密な計算に基づいて、年四割の配当を予言することができるのである――。
株主会議は可決した。はじめふさわしくも「レヴィアザン」と呼ばれたこの巨大船は、まもなく「グレート・イースタアン」と改名されて一八五四年五月一日にロンドン・ミルオール造船所で起工、満三カ年と九カ月を費して、めでたく進水の運びがついた。
トン数一八、九一四(それまでの最大鉄造船は三、三〇〇トン)、排水トン数にして二七、〇〇〇トン、長さ六八〇フィート、幅八二・五フィート。一万トンの石炭と六千トンの貨物を積み、四千人の船客を収容し、軍隊なら一万人を輸送することができるはずである。
[#「「グレート・イースタアン」横断面」のキャプション付きの図(fig50361_01.png、横383×縦599)入る]
たんに大きい、だからまた補助金なしで算盤がとれる、というだけでなく「グレート・イースタアン」は鉄造船技術史上の一つの画期的存在でもあった。なぜならこの船ではじめて理想的な「沈まない船」ができた――いわゆる「ダブル・スキン」がはじめて応用されたのである。
吃水線《きっすいせん》以下と上甲板とが密房組織の二重張になった。何でもない工夫のようだが、技師ブランネルが、有名なメネー管橋の橋梁工事の経験から案出したものである。外壁が万一破れても、けっして船内には浸水しない。だが万々一内壁まで破れるような椿事《ちんじ》が起った場合には?――というので、さらに、セカンド・デッ
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