界で最も美《うる》わしい最も豊饒なそれでいてこれまで無人の境と選ぶところがなかったこの海岸が、みるみる富裕な文明国と化した。ヤンキーからはじめてシナ人、ネグロ、インディアンならびにマレイ人、欧洲系米人《クレオーレン》、黒白混血種《メスチーゼン》さてはヨーロッパ人にいたるありとあらゆる種類がここに密集した。
カリフォルニアの金は奔湍《ほんたん》となってアメリカ中に、さらに太平洋のアジア沿岸に溢《あふ》れ出る。そして頑固な蛮民を世界商業に、文明にひきいれる。世界商業のうえに再度新方向が到来した。
古代でチルス、カルタゴおよびアレキサンドリアが、中世でゼノアとヴェネチア、そしてきょうが日までロンドンとリヴァープールが世界商業の中心であったように、いまやニューヨークおよびサンフランシスコ、サンジュアン・ド・ニカラグアそしてレオン・チャグレスおよびパナマがそれとなるだろう。
世界交通の重心は中世ではイタリー、近代ではイギリスだったが、今日では北米半島の南半である。旧ヨーロッパの産業と商業は一大奮発の必要がある――もし十六世紀以降のイタリーの産業商業と同じ浮目を見たくなかったら! もしイギリスとフランスが今日のゼノアと同じ運命に立到《たちいた》りたくなかったら!
数年ならずしてイングランドからチャグレスへ、チャグレスおよびサンフランシスコからシドニー、広東《カントン》およびシンガポールへ、汽船の定期就航を見るにいたるだろう。
カリフォルニアの金とヤンキーの不撓《ふとう》の精力のおかげで、太平洋の両岸はたちまちのうちに、今日ボストンからニューオルリーンズにいたる海岸同様の人口を持つこととなり、商業の天地と化するであろう。
そのときこそ太平洋は、今日大西洋がそして古代中世に地中海が演じた同じ役割を――世界交通の大水路たる役割を演ずることとなるだろう。同時に大西洋は、今日の地中海同様の単なる内海の役割にまで没落してしまうのだ。
そのときヨーロッパ文明諸国が今日の、イタリー、スペインおよびポルトガルの轍《てつ》を踏んで産業的、商業的および政治的従属状態に陥らないで済むための唯一のチャンスは、社会革命にある。すなわち、間に合うならば、生産および交通方法を近代的生産諸力から生じつつある生産要求そのものに従って変革し、よってもって新生産諸力の発現を可能にするのである。かくすると
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