を下げた。
「お忙しいところを、申し訳ございません。何分よろしく、お願い申しまする」
「いや、お役に立つかは判らねえが、こうして来るのも、やっぱり緑があるんだろうから、出来るだけは、働いてみることにしましょうよ」

 伝七は四分一《しぶいち》の煙管《きせる》をつかんだまま、柔《やさ》しくうなずいた。
 留五郎は死体の傍へ寄って、じっとお由利の顔を見守った。他の者も枕許を取り巻いて、カタズをのんだ。
 着物から、長じゅばん、はだ着と、前をひらくと、眼に沁みるばかりの真っ白なはだが、あたかも生きているもののようにあらわれた。
「兄貴、やっぱりこれが命取りだな」
「うむ、刃物は大した切れ味だ」
 こんもりと盛り上がった乳房の下を、一と刺し、キッサキが心臓に達したと見えて、衣類は朱《あけ》に染まっているが、大して苦しんだ様子もないままに息は絶えていた。
 留五郎が、また元のように着物を直すと、伝七も共々片手拝みをして、源兵衛の方へ向き直った。
「旦那。それじゃゆうべの様子を、一通り聞かしてもらおう」
「はい。……お由利が帰ってまいりましたのは、丁度五ツ|時《どき》でございましたが、お光の方様へ
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