当人は、星灯ろう見物の、お供で来たんだそうでしてね。二日だけ、宿退りを頂いたってわけだと聞きやした。何しろ帰ったその晩の出来事でげすから、両親を初め見世の者ア気が転倒《てんとう》してえたんでござんしょう。飛び込んでったあっしをつかまえて、まるっきりまとまりのつかねえことを申しやす――この界隈じゃア、小町娘と評判だったお由利さんのこと。一つ親分に、出向いてお貰い申そうと、横ッ飛びに帰ってめえりやした」
「そうか。よく聴き込んだ。将軍様は、ゆうべの中《うち》に御帰還《ごきかん》だが、それに関わりのあることだけに、今日明日の中に埒《らち》を開けなくちゃ、お奉行の遠山様のお顔に係わるというもんだ。直ぐに行こう」
立ち上がった留五郎は、黙々と聴いていた伝七を見た。
「黒門町。いま聞きなすった通りだ。迷惑だろうが、一緒に来ちゃ貰えめえか」
「うむ。お前さんさえよけれア、いかにもお供《とも》をしよう。仏様を抱えているお前だ。手伝いが出来りゃ、おいらも本望よ」
「有難てえ。長引いたら、今度ばかりゃ、ほうぼうから集まって来るに違えねえから、愚図愚図《ぐずぐず》しちゃいられねえ仕事、兄貴が来ておくんなさ
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