た。
「岩、てめえの話ア、騒々《そうぞう》しくっていけねえ。黒門町もいる事だ。もうちっと落ち着いて話をしねえ」
「いや北町の」
 しかりつける留五郎を、笑いながら伝七はとめた。
「あわてる方じゃ滅多《めった》に退《ひ》けを取らねえ男が、こちらにもいるんだ。おいらア、あわて者にゃ慣《な》れてるから、ひとつ、今のつづきを聞かして貰おうじゃねえか」
「冗談じゃありやせんぜ」
 と獅子っ鼻の竹が首を振った。
「親分。何も青山くんだりまで来て、あっしを引き合いに出さなくっても、ようござんしょう」
「ははは。人ア、引き合いに出されるうちが、花だと思いねえ。……ところで岩さん。筋アどういうんだ?」
 岩吉は、ごくりと固唾《かたず》を呑んだ。
「実ア梅窓院通りの、伊吹屋の娘でござんす」
「じゃア大奥へ勤めている、お由利だな。いってえどこで殺されたんだ」
 留五郎も思わずひとひざ乗り出した。
「ゆうべ、自分の家へ帰って来やしてね。大勢《おおぜい》で祝いの真似をして飲んだり食ったりして、寝間へ這入ったそうですが、今朝お袋が起こしに行くと、胸元を一突き、もう冷たくなってたという話なんで……」
「うーむ」

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