活き活きとにぎわっていった。
朝風
「親分、大変だ」
「やいやい、岩吉、騒々《そうぞう》しいぞ。御用を預かる家で、一々大変だなんぞと云ってたんじゃ、客人に笑われるぜ。気をつけろい」
「へッ。こいつア大《おお》しくじりだ。いつもの癖が出ちまったんで。……こりア黒門町の親分、お早うございます」
「岩さん。朝から大層な働きのようだな」
「伝七親分の前でござんすが、十年に一度って騒ぎを、聞き込んでめえりやしたんで……」
「岩、そりア何だ」
親分の問いに、打てば響《ひび》くように、岩吉の声は冴えた。
「へい。ゆうべ、将軍様のお供をして来た御殿女中が、殺されやした」
青山北町の岡っ引留五郎の家では、昨夜は老衰《ろうすい》で死んだ父親の通夜《つや》とあって、並み居る人達の眼ははれぼったかったが、岩吉の声に、一斉に眼をみはった。
留五郎の父親も江戸では名の通った捕物師だったので、黒門町の伝七も、わが子のように可愛がって貰った縁があるところから、子分の獅子《しし》っ鼻《ぱな》の竹造を連れて、一夜をここに明かしたのであったが、今も今、帰ろうと立ちかけた矢先に、聞き捨てならぬ珍しい話だっ
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