ょうてん》にさせていたのだった。
待ちかねた夫婦の前へ、いきなり闇の中から現われた常吉の声は弾んでいた。
「旦那様。おかみさんもお喜びなさいまし」
「おお、常吉か。お由利はどうした?」
「へい。今し方お行列が、遠藤様へお着きになりましたので、お嬢様にもお暇が出ました。今、あすこへおいでなさいますが、お客様が御一しょだと仰しゃいますので、一っ走り、お先へまいりました」
そこへ、お春の持った提灯《ちょうちん》が近付いて、その灯りの中に、くっきりお由利の顔が浮かんで見えた。
文金《ぶんきん》の高島田に、にっこりとした御殿女中の拵《こしら》えであるが、夏の名残りの化粧の美しさは、わが娘ながら、まぶしいばかりにつややかであった。
「おお、お由利……」
「よくまア帰って来ておくれだねえ」
「お父さん、おっ母さん。お達者で……」
連れ立って帰って来た朋輩《ほうばい》らしい女中や、お茶坊主らしい人をそのままにして、小走りに進み寄った由利は、両親に手を執られて、胸が一杯になったのであろう。早くも瞼《まぶた》がぬれていた。
お春と常吉が、由利の帰宅を報せに、見世先から駈け込んだので、伊吹屋は急に
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