柄だったんだなア」
「あたしには、判りませんけれど、その書置きを聞いていて、つい泣いてしまいましたよ」
岩吉へ茶を持って来たお俊は、袖口を眼に当てた。
「親分は、あっし達が、常吉をしょっ引いた時、もう袖ノ井に当たりをつけておいでなすったんでござんすか」
「いいや、そうじゃねえ。ただ乳房を一刺しにした腕前は、町人にゃ、ちょいと難しいと思っただけだ。真斎《しんさい》の話を聞いているうちにこいつア袖ノ井だと、はっきりと判ったが、使いを寄越されてみると、一晩だけア騒がねえで、その最後を浄《きよ》くさしてえと、黙って手を束《つか》ねていたわけだ。……岩さん御苦労だったの。それで、お届けの方は、すっかり済んだかい」
「へえ。ああいう女中衆は、こんなことになると、きのうのうちに、お暇が出たことになりやすそうで。……後始末は留五郎親分に、すっかり委《まか》されやした。いま取り混みの最中でござんす」
「そうか。おいらも後から顔を出すが、何分宜敷く頼むと、留五郎どんに、くれぐれも伝えてくんねえ」
「へえ、かしこまりました」
そう云うと岩吉は、急に立ち上がって、しかつめらしい顔をした。
「伝七親分。この
前へ
次へ
全39ページ中38ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
邦枝 完二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング