伝七は明日の午《うし》の刻頃までは、伺いませんから、どうぞゆっくりしておくんなさい」
「有離うございます。それでは何分、お願い申します」
 お俊のすすめた茶を押し頂いて飲むと、老婆は、いそいそと帰って行った。
「親分、冗談じゃござんせんぜ。提灯はどうなりやすんで?」
「なア竹。せいては事を仕損ずると云うじゃねえか」
「だって親分。常吉でもなし、平太郎でもなし、鴎硯でもなしってことになった今、袖ノ井に、何をお聴きなさるのか知りやせんが、これも明日のことだってんじゃ、いい加減、気がくさるじゃござんせんか」
「ははは。まだくさるのア早えよ。こんな日にゃ、早く寝ちまって、またあした出直すんだ」

     かきおき

 明るい朝が来て、澄んだ初秋の空からは、眩《まぶ》しい太陽の下に、小鳥の声が軒庭に喧《さわが》しかった。
「お早うござんす。親分はおいででござんしょうか。留五郎からまいりました。ちょいとここで、お目に掛かりとう存じます」
「おお、岩吉さんか。大層また早いじゃねえか」
 竹造は、裏の方で何かしているらしく、神棚の水を取り替えていた伝七が、気軽く上がりかまちへ出て行った。
「親分の留
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