思って居りましたが、何気なく裏木戸を押してみますと、わけもなく開きましたので……」
「すると、閂《かんぬき》が外れていたというんだな」
「左様でございます。それから庭伝いに、縁側まで行って、そっと雨戸を開けまして、枕元の方へ行きますと、有明行灯《ありあけあんどん》の灯で、ぼんやりと見えましたのは、両のこぶしを握りしめている、裸のお由利さんの死骸でございました」
「うむ」
「あッと云ったっきり、わたしは、何も見えなくなってしまいましたが、間もなく気がつきましたのは、こうして居れば、自分に人殺しの疑いがかかる、ということでございました。もう恐ろしさに、誰を起こす考えも出ませず、あわてて、逃げて帰ったのでございます」
「そうじゃあるめえ。おめえは、お春にそそのかされて、太え料簡《りょうけん》を起こしたんだろう?」
「決して、そんなことはございません。わたしは、お春のような勝ち気な女は、大嫌いでございます」
今まで堪《た》えに堪《た》えていたのであろう。平太郎の眼からは、急に涙が頬を伝わった。
「よし、これからおめえの、親父に逢おう。おい竹。ここの旦那に、おいらア一巡りしてくるからとそう云っ
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