ように胴を真っ直ぐにしたまま、首だけ垂れて腰を下ろした。
「おめえが、お由利さんの部屋へ這入ったのア、何刻《なんどき》だった?」
「………」
「今朝、ここのお内儀《かみ》が、お由利さんの死んでるのを見て騒ぎ出した時、駈けつけた旦那の気がついたのア、縁側の雨戸が二寸ばかり、開いてたってことだ。馴《な》れた奴ア、決してそんな間抜けな真似はしやアしねえ。素人《しろうと》に限って、あわてて、そんなドジを踏むんた。おめえ、夢中ンなって、逃げ出したに違えあるめえ」
「恐れ入りました」
「うぬ、御用だッ」
 竹道が頭の上から一喝した。
「あ、お待ち下さいまし……」
 冷水でも浴びせられたように、震《ふる》え上がった平太郎は、思わず伝七を拝んだ。
「竹、待ちねえ。平太郎、おめえ何かいいてえことがあるのか」
「へい。……お由利さんの所へ、忍び込みましたのは、わたくしに相違ございませんが、その時にはもうお由利さんは、死んで居たのでございます……」
「平太郎。口から出まかせをいうと、反《かえ》っておめえの、お咎《とが》めが重くなるぜ」
 伝七は鋭《するど》くきめつけた。
「いいえ、決して親分さんに、嘘は申し
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