と、なすったんですけど、お春お嬢さんは常どんと、一緒じゃいやだと仰しゃって、さっさと寝ておしまいになりました。それというのも……」
「それというのも?……」
「お春お嬢さんは、平太郎さんを想ってらっしゃるからでございます」
「平太郎といえば、死んだお由利さんと、祝言《しゅうげん》するはずだった男だが。……それじゃ男の方でも、お春を想っているのか」
「それは、わたくしには判りませんが、ゆうべのことを思いますと……」
「ゆうべのことというと……?」
「………」
「つまらねえ遠慮をしてると、常吉ばかりか、おめえのためにもならねえんだよ。はっきり云うがいい」
「は、はい。……実は、夜半過ぎまで、常どんは、わたしの所に居ましたが、これからお由利様の、お部屋の行灯《あんどん》の油を差しに行くんだと云って、離《はな》れへまいりましたんで……」
「うむ」
「それから先は、わたしは何んにも知りませんでしたが、今朝の騒ぎになってから、ゆうべは飛んでもないことをした、と云うんでございます」
「………」
「常どんが、離れへ行きますと、障子の中に、人の居る様子なので、びっくりして引き返してしまったと申します――
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