んを殺したんじゃアありません」
「どうしてお前に、それが判るんだ?」
「さっき、お春お嬢さんが、廊下を歩いていたと仰しゃいましたが、常どんはあの時まで、女中部屋にいたのでございます」
「そんな夜半に、どうしてお前の部屋にいたんだ? おかしいじゃねえか」
「はい……」
 おみねの蒼《あお》ざめた顔が、ぽッと赤くなった。
「おはずかしいことでございますけど、常どんの命に係わることですから、何もかも申し上げます。二人は……常どんとわたくしは、言い交《か》わした仲でございます」
「何んだって?」
「この春でございました。わたくしが病気で、十日ばかり寝ました時、常どんが、毎晩看病してくれましたので、ついその親切にほだされまして……」
「だっておめえ、常吉はここの家の、聟《むこ》になる男じゃァねえか」
「左様でございます。ですけど、お春お嬢さんは、常どんが小僧さんだったというので、大層|邪慳《じゃけん》になさいます。それでときどきは、常どんも、口惜し泣きに泣いて居りますんで。……わたくしも日頃から、気の毒に思って居ました」
「うむ」
「ゆうべも旦那は、お春お嬢さんと常どんを、お祝いの席へ着かせよう
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