んで、飛んでもねえ真似を、しやがったに違いねえ。その心底《しんてい》が判ってればこそ、てめえを養子に迎えるはずのお春さんが、てめえの味方になっちゃアくれねえんだ。どうだ、申し開きがあるか」
「………」
「お春さん。そうだろう?」
「わたしは、常吉が殺したとは申しませんが、姉さんと常吉とを較《くら》べますと、姉さんの味方をしたいと、思いますので……」
「よし、常吉。どうだ?」
「わ、わたくしは、子供の時分、御奉公に参りましてから、上のお嬢さんには、いつも優《やさ》しくして頂きました。母親のないわたくしはもったいないことながら、母とも姉とも、お慕《した》いしてきましただけに、お嬢様を殺すなどと、そんな大それたことが、出来るわけはございません。……刃物はきょう、犀角散《さいかくさん》を、削《けず》ることになって居りましたので、磨《と》がしましたばかり。決して、血を落としたんじゃございません」
「それじゃてめえは、お春さんに見られた時ア、離れからの帰りじゃなかったのか」
「………」
「厠《かわや》にゃお春さんが這入っていたんだ。てめえは用もねえのに廊下を歩いていたんじゃあるめえ」
「………」
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