るように、留五郎に云われた言葉には、決然として顔を挙げた。
「今朝、お嬢さんのことを知りましてから、何か手掛かりはないかと探して居りましたら、裏の木戸のかんぬきの外れているのに、気がついたのでございます」
「えッ、かんぬきが?……」
 源兵衛が横合《よこあい》から叫んだ。留五郎は、その様子を冷ややかに見たが、急に眼を光らせたのは伝七だった。
「では旦那。そいつは、いつもかかっていたんですね」
「左様でございます。暮れ六つになりますと、必ずかけることになって居りまして、昨夕方も、わたくしが見回りまして、確かに見届けているのでございます」
「じゃア兄貴は?……」
 不服そうに留五郎は、伝七を見た。
「外から這入って来た奴が、あると云いなさるのか」
「さあてな。あるとは云わねえ。だが、無いとも云えねえ。それを調べてみなくちゃ、ならねえと思うだけよ」
「はははは。この野郎が、おのれにかかった疑いを、ごま化すためにそんなことを云い出したんだ。やい常吉」
 留五郎の声に、常吉はビクリと肩をふるわした。
「てめえは、お由利さんに、想《おも》いを寄せてたんだろう。平太郎に取られるのが、たまらなくなった
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