をまぶしそうに仰いだ。
「松どんは、よく眠っていたらしいんですが、あたしは、常どんに足をけっ飛ばされて、眼が覚めました。痛えなアといいますと、暗くって見えないんだから、勘弁しなと云って、自分の床へ這入ったようでございました」
「そうか。それじゃア夜半に、外へ出たことは間違えねえな? どうだ。今朝常吉に、何か変わった様子はなかったか」
「あ、そうだ」
 松三郎が、急に声を大きくした。
「さい角《かく》や干《ほ》し肝《ぎも》を削《けず》る、薄刃《うすば》の小刀を、磨《と》いでくれと頼まれましてあたしが磨ぎました」
「なに、刃物?……」
 留五郎の顔には、急に晴晴した微笑が浮かんだ。
「お春さん。お前の推量《すいりょう》は、当たってるぜ。直ぐに常吉を呼んで来ねえ」

     外《はず》された閂《かんぬき》

「常吉。おめえいま、裏の方へ行ってたそうだな。いよいよ、逃げ出すつもりだったに違えなかろうが、そうは問屋でおろさねえぜ」
「いえ。なんで左様なことを、いたしましょう。それは……」
 留五郎の前へすわらされた常吉は、お春、小僧達の云ったことを聞かされて、悄然と頭を垂れたが、追い打ちを掛け
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