「よし。もうきくことアねえ。これから、お奉行所へしょっ引いて行って、砂をかましてやるから覚悟しろ。お奉行様は、泣く子も黙る遠山|左衛門尉《さえもんのじょう》様だ。ひとたまりもあるもんじゃねえ。――おお旦那、野郎の部屋にある刃物を、持って来ておくんなせえ」
そう云うと留五郎は、いきなり常吉にナワをうった。
「へ、へい……」
源兵衛が、よろめきながら出て行くのを見て、留五郎は体を揺すって笑った。
「伝七兄貴。どうやら片付いたようだ。さア一しょに引き揚げよう」
「いや、折角《せっかく》だが、おいらは残ろう。おめえは気の済むまで、そいつを調べるがいい」
「じゃ何か。お前さんはまだ、外から入った奴の仕業《しわざ》だと、にらんでるんだな」
「そりア判らねえ。だが北町の。おいらアどうもまだ、調べ残しがあるように思われるんだ。おいらは、得心《とくしん》のいくまで調べねえと、飯がうまくねえ性分《しょうぶん》だ。ちっとも遠慮することアねえから、おめえは、先へ引き揚げてくんねえ。なアに、夕方までにゃ帰って、おめえンとこの、仏様に聞いてもらうよ」
色もみじ
常吉の縄尻《なわじり》をとって、
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