が、遠慮はいらねえから、話してもらいたいな」
「………」
「みんなが黙ってると、一人一人を、責《せ》めなくちゃならねえ。時によると、根こそぎお奉行所へ、引っ張って行くかも知れねえんだ。おいらの方じゃァ、大体の見当がついて居て、こんなこともきくんだから、正直に云わなくちゃいけねえぜ」
「………」
「よしッ。それじゃア、一人一人にきこう。お春さんを一人残してほかの者ア、次の部屋で待っててくんな」
一同が出て行ってしまっても、留五郎は不興気《ふきょうげ》であった。
「お春さん、ここにいるのア、両親だけだ。姉のあだを討つためにも、本当のことを云わなくちゃならねえ。いまお前が、何か云いたそうにしていたから、みんなを遠ざけたんだ。――さア云いねえ」
「はい。……時刻は、はっきりとは判りませんが、真夜中に、御不浄《ごふじょう》へまいりました時、廊下を足音を忍ばせて、通った者がございます」
「うむ」
「わたしが廊下へ出ました時、手燭の光に、驚いたように振り返りましたのは、もうずっと向こうへ行って居りましたが、確かに常どんでございました」
「常吉?……」
源兵衛が、びっくりしたようにオウム返しに問い
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