郎もまた気の弱い男、祝言《しゅうげん》の日のきまるのを、待って居りますような訳でございます」
「今朝はまだ、来ちゃア居ないようだね」
「はい。あんまり騒ぎが大きくなりましてはと、見世の者にも、口止めをいたしてございますし、結城屋へも、報してはございませんので……」
 それを聞いていた留五郎は、伝七のうなずくのを見て、急に改まった。
「お内儀《かみ》さん。じゃいよいよ、調べにかかろう。ひとつ、家内中の者を、呼んでもらいましょう」

     夜半の出来事

 お牧が出て行くと、間もなく、何《いず》れも色あおざめた男女五人が、入口へ並んだ。
「それでは申し上げますが、一番前に居りますのが、妹娘のお春で、十七になります」
「お由利さんは、確か十九だったね」
「はい、厄年《やくどし》でございます」
 父親の声に、丁寧に頭を下げたのは、結綿《ゆいわた》の髪に、桃色の手絡《てがら》をかけた、姉に似たキリョウよし、しかもなかなかのしっかり者らしかった。
「その次に居りますのが、手代の常吉で、行く行くは、お春のムコにいたしまして、この見世を継がせたいと思って居ります。子供の時から、奉公いたして居りまし
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