手でございました。さんざん笑わせて頂きましたくらいでございました」
「うむ。みんなが帰ったのは?」
「鴎硯様は、お行列のお供には、加わらなくてもよいのだと、申されて居りましたが、それでも四ツ時ごろには、駕籠でお帰りになり、暫くして、星灯ろうを見物がてら、お由利が袖ノ井様を、送って行くと申しまするので、遠くもない所でもあり、常吉をつけてやりましたが、ものの半刻《はんとき》ばかりで、お由利もかえってまいりました」
「………」
「それから親子水入らずで、いろいろと話がはずみましたが、疲れていることでもございますし明日の朝は、ゆっくり寝たいから、渡り廊下になっている、離れがいいと申しますので、ここへ寝かしましたのでございます。愚痴のようではございますが、今から思いますと、手前共の部屋へ寝かしましたら、と、そればっかりが、残念でなりません」
「旦那。大層失礼なことを、おたずねするが……」
伝七が口をはさんだ。
「平太郎さんと、お由利さんとは割《わり》ない仲になっていなすったのかね」
「いえいえ。左様なことはございません。お由利も、親の口から申しますのは、何でございますが、固《かた》い女で、平太
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