郎もまた気の弱い男、祝言《しゅうげん》の日のきまるのを、待って居りますような訳でございます」
「今朝はまだ、来ちゃア居ないようだね」
「はい。あんまり騒ぎが大きくなりましてはと、見世の者にも、口止めをいたしてございますし、結城屋へも、報してはございませんので……」
それを聞いていた留五郎は、伝七のうなずくのを見て、急に改まった。
「お内儀《かみ》さん。じゃいよいよ、調べにかかろう。ひとつ、家内中の者を、呼んでもらいましょう」
夜半の出来事
お牧が出て行くと、間もなく、何《いず》れも色あおざめた男女五人が、入口へ並んだ。
「それでは申し上げますが、一番前に居りますのが、妹娘のお春で、十七になります」
「お由利さんは、確か十九だったね」
「はい、厄年《やくどし》でございます」
父親の声に、丁寧に頭を下げたのは、結綿《ゆいわた》の髪に、桃色の手絡《てがら》をかけた、姉に似たキリョウよし、しかもなかなかのしっかり者らしかった。
「その次に居りますのが、手代の常吉で、行く行くは、お春のムコにいたしまして、この見世を継がせたいと思って居ります。子供の時から、奉公いたして居りまして、まことによく働いてくれますので……」
常吉は頭を赤らめて、両手をついたが、常々それと決めていて、何の感じもないのか、お春は姉の方を見つめたまま、顔色も変えなかった。
後は田舎から出て来て間もないような、小僧の民吉と松三郎。これには留五郎も伝七も、眼をひかれた様子はなかった。
「手前共は、地味《じみ》な商売でございまして、わたくしがまだおもに働いて居りますところから、これくらいの人数で、十分やっていけますので。……台所をやらせて居りますのが、一番末に座って居ります、下女のおみねでございます。十八になりますが、一昨年、房州《ぼうしゅう》から雇い入れました、正直者でございます」
きまり悪げに、眼を伏せているおみねは、女中のこととて、地味な身なりはしているが、肩も丸味を帯び、胸元も高く、ときどき留五郎の方を見る顔には、何となく色気があって、一応男の眼をひく女であった。
「いや、よく判った。こうしてみんなに並んでもらったので、調べも大層楽に出来るというもんだ。どうだな、この中にいるだれかはゆうべ一同が寝静まってから、お由利さんの部屋へ、這入って行った者のあるのを、知ってるに違いねえんだが、遠慮はいらねえから、話してもらいたいな」
「………」
「みんなが黙ってると、一人一人を、責《せ》めなくちゃならねえ。時によると、根こそぎお奉行所へ、引っ張って行くかも知れねえんだ。おいらの方じゃァ、大体の見当がついて居て、こんなこともきくんだから、正直に云わなくちゃいけねえぜ」
「………」
「よしッ。それじゃア、一人一人にきこう。お春さんを一人残してほかの者ア、次の部屋で待っててくんな」
一同が出て行ってしまっても、留五郎は不興気《ふきょうげ》であった。
「お春さん、ここにいるのア、両親だけだ。姉のあだを討つためにも、本当のことを云わなくちゃならねえ。いまお前が、何か云いたそうにしていたから、みんなを遠ざけたんだ。――さア云いねえ」
「はい。……時刻は、はっきりとは判りませんが、真夜中に、御不浄《ごふじょう》へまいりました時、廊下を足音を忍ばせて、通った者がございます」
「うむ」
「わたしが廊下へ出ました時、手燭の光に、驚いたように振り返りましたのは、もうずっと向こうへ行って居りましたが、確かに常どんでございました」
「常吉?……」
源兵衛が、びっくりしたようにオウム返しに問い返した。
「あの廊下は、姉さんの寝ている離れから、台所まで行くようになって居ります。その途中から、常どんが小僧達と一緒に寝ている部屋へ、曲がるようになって居りますので、その時は、何とも思ってはおりませんでしたけど、あれは姉さんの所へ、行った帰りだと思います」
「そうか。……他に何か今度のことについて、気のついたことはねえか」
「ございません」
「よし。じゃアお前さんは、あっちへ行って、小僧達を呼んで来ねえ」
「はい」
重苦しい空気が、一同の前に流れた。
「常吉に限って……」
「でも、……そう云えば、お由利のことというと、夢中になる方ですからね。きのうだって、自分一人で迎えに行くなんて、云ってたじゃござんせんか」
源兵衛がお春の言葉を耳に掛けない様子に、お牧は同調しなかった。
「小僧達を、連れてまいりました」
「………」
お春の後ろへすわった小僧達は、互いに顔を見合わせて、おどおどと落ち着かなかった。
「おい。お前達は、ゆうべ寝てから、常吉が部屋から外へ出て行ったのに、気がついていただろう」
「………」
松三郎が困って民吉を見ると、民吉はにらむようにそれを見返したが、やがて留五郎
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