が、遠慮はいらねえから、話してもらいたいな」
「………」
「みんなが黙ってると、一人一人を、責《せ》めなくちゃならねえ。時によると、根こそぎお奉行所へ、引っ張って行くかも知れねえんだ。おいらの方じゃァ、大体の見当がついて居て、こんなこともきくんだから、正直に云わなくちゃいけねえぜ」
「………」
「よしッ。それじゃア、一人一人にきこう。お春さんを一人残してほかの者ア、次の部屋で待っててくんな」
 一同が出て行ってしまっても、留五郎は不興気《ふきょうげ》であった。
「お春さん、ここにいるのア、両親だけだ。姉のあだを討つためにも、本当のことを云わなくちゃならねえ。いまお前が、何か云いたそうにしていたから、みんなを遠ざけたんだ。――さア云いねえ」
「はい。……時刻は、はっきりとは判りませんが、真夜中に、御不浄《ごふじょう》へまいりました時、廊下を足音を忍ばせて、通った者がございます」
「うむ」
「わたしが廊下へ出ました時、手燭の光に、驚いたように振り返りましたのは、もうずっと向こうへ行って居りましたが、確かに常どんでございました」
「常吉?……」
 源兵衛が、びっくりしたようにオウム返しに問い返した。
「あの廊下は、姉さんの寝ている離れから、台所まで行くようになって居ります。その途中から、常どんが小僧達と一緒に寝ている部屋へ、曲がるようになって居りますので、その時は、何とも思ってはおりませんでしたけど、あれは姉さんの所へ、行った帰りだと思います」
「そうか。……他に何か今度のことについて、気のついたことはねえか」
「ございません」
「よし。じゃアお前さんは、あっちへ行って、小僧達を呼んで来ねえ」
「はい」
 重苦しい空気が、一同の前に流れた。
「常吉に限って……」
「でも、……そう云えば、お由利のことというと、夢中になる方ですからね。きのうだって、自分一人で迎えに行くなんて、云ってたじゃござんせんか」
 源兵衛がお春の言葉を耳に掛けない様子に、お牧は同調しなかった。
「小僧達を、連れてまいりました」
「………」
 お春の後ろへすわった小僧達は、互いに顔を見合わせて、おどおどと落ち着かなかった。
「おい。お前達は、ゆうべ寝てから、常吉が部屋から外へ出て行ったのに、気がついていただろう」
「………」
 松三郎が困って民吉を見ると、民吉はにらむようにそれを見返したが、やがて留五郎
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