れ、毛頭嘘偽りは申上げませぬ」
「よかろう。それ程までの覚悟があるなら、やって見なさるがいゝ。しかし断っておくが、わたしゃついぞこれまでにも、弟子と名の付く者は、只の一人も取ったことはないのだから、新らたにお前さんを、弟子にする訳にゃア行かねえよ」
「じゃアやっぱり、御門下には加えて頂けませんので。……」
「元来絵師と違って、作者の方にゃ、師匠も弟子もある訳のもんじゃねえのだ。己が頭で苦心をして己が腕で書いてゆくうちに、おのずと発明するのが、文章の道だろう。だからお前さんが、ひとかどの作者になりたいと思ったら、何も人を頼るこたアねえから、おのが力で苦心を刻んでゆくことだ。そいつが世間に容れられるようなら、お前さんに腕があるという訳だし、こんなもなア読めねえと、悪評判を立てられるようなら、腕のたりねえ証拠になる。――どっちにしても、師匠に縋《すが》るとか、師匠の真似で売出そうとか考えたら、それア飛んだ履き違いだぜ。――いくたりの知己ある世かは知らねども、死んで動かす棺桶はなし。つまり戯作者の立場はこれだ。判ったかの」
「はい」
 馬琴は力強く頷《うなず》いて、嬉しそうに京伝の顔を見上げた
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