も御無礼いたしました。――御覧の通りの漏屋《ろうおく》ではございますが、どうか、こちらへお上んなすって下さいまし」
横柄な態度から察しても、これはてっきり、京伝の使いとして、きょうからでも山東庵へ来るようにと、その言伝《ことづ》てに来たのだと、馬琴は早合点した。
「折角だが、上って話をする程の、大事な用じゃアねえんで。……」
「どのような御用でございましょう」
「おめえさんに、もう二度と再び、銀座へは来て貰いたくねえと、その断りに来やしたのさ」
「えッ」
「どうだ。こいつアちったア身に沁みたろう。――ふゝゝ。おめえのような、そんな高慢ちきな男ア大嫌えなんだ」
吐き出すようにこういった京山は、仲蔵《なかぞう》もどきで、突袖の見得を切った。
馬琴は、薄気味悪くニヤリと笑った。
「そりゃアどうも、わざわざ御苦労様でございました」
「なんだって」
「御苦労様でございましたと、お礼を申して居りますんで。……この雪道を、わざわざおいで下さいませんでも、それだけの御用でしたら、今度伺いました時に、そう仰しゃって頂きさえすりゃ、それで用は足りましたのに、却って恐縮で、お詫の申しようもございません
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