歌麿の顔を見守った。――二十の頃から、珠《たま》のようだといわれたその肌は、年増盛《としまざか》りの愈※[#二の字点、1−2−22]《いよいよ》冴《さ》えて、わけてもお旗本の側室《そくしつ》となった身は、どこか昔と違う、お屋敷風の品さえ備《そな》わって、恰《あたか》も菊之丞《きくのじょう》の濡衣《ぬれぎぬ》を見るような凄艶《せいえん》さが溢《あふ》れていた。
が、歌麿の微笑は冷たかった。
「お旗本のお使いと聞いたから、滅多《めった》に粗相《そそう》があっちゃならねえと思って断らせたんだが、なぜまともに、おきただといいなさらねえんだ」
「そういったら、お師匠さんは、会ってはおくんなさいますまい。――永い間の御親切を無《む》にして仇し男と、甲州くんだりまで逃げ出した挙句、江戸へ戻れば、阪上様のお屋敷奉公。さぞ憎い奴だと思し召したでござんしょう。――ですがお師匠さん。おきたの心は、やっぱり昔のままでござんす。ふとしたことから、お前さんの今度の災難を聞きつけましたが、そうと聞いては矢も楯《たて》も堪《たま》らず、お目に掛れる身でないのを知りながら、お面《めん》を被《かぶ》ってお訪ねしました。
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