たゆうしゅう》がもらうような、こんな御祝儀を見せられちゃ、いやだともいえまいじゃないか。だがいったい、見ず知らずのお前さんの、頼みというのは何さ。あたしの体で間に合うことならいいが、観音様の坊さんを頼んで、鐘搗堂《かねつきどう》の鐘《かね》をおろして借りたいなんぞは、いくら御祝儀をもらっても、滅多《めった》に承知は出来ないからねえ」
「姐《ねえ》さん、おめえ、なかなか洒落者《しゃれもの》だの」
「おだてちゃいけないよ」
「おだてやしねえが、観音様の鐘は気に入った。だが、おいらの頼みはそんなんじゃねえ。観音様の鐘のように大きいおめえの体を、二時《ふたとき》ばかりままにさせてもらいてえのよ」
「あたしの体を。――」
「そうだ。噂《うわさ》に違《たが》わず素晴らしいその鉄砲乳が無性《むしょう》に気に入ったんだ。年寄だけが不足だろうが、さりとて何も、おめえを抱《だ》いて寝ようというわけじゃねえ。ただおめえが、おいらのいう通りにさえなってくれりゃ、それでいいんだ。――どうだの、お近さん。ひとつ、色よい返事をしちゃアくれめえか」
ぐっと一膝《ひとひざ》乗り出した歌麿の眼は、二十の男のような情熱に
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